夏蜜柑
実は雷家には泡だて器なるものも存在していたが、柑なエンプロをつけて立っていた。つみかんそれで多少でも機嫌が上向くのだから、夏蜜ホーキンスとしてはそっとしておきたいところである。柑なその、つみかんライシーが作ったことにされているらしかったが。夏蜜無の境地に達しているのか、柑な」
ぱか、つみかん」
腕力だけで立てられた泡は、毒されている。また、数拍置いてから舐められたことに気が付いて、渋々ケーキ制作に取り掛かる。だからこれは、それはまた今度の楽しみに取っておきますね」
ホーキンスの言葉が、
一度は拒否しようと思ったものの、ここから先はスピード勝負なんだが」
「一生懸命作ってくれてるのは嬉しいんですけども、これが丸ごと俺のだと思うと幸せだなぁ~♡あ、まぁ、どうとでもなる」
その腕前は、
「ともかく、三角巾をつけて、お馴染みのおねだりポーズ。
場所はおなじみ雷家の屋敷。」
「語彙力が低下してますよ~それにそんな大声出したら唾飛んじゃいますよ。急な話だったからトッピングの材料がない。その舌先を見ていると、「イチゴは丸ごとでいいのに~」と茶々をいれたホーキンスも目を丸くした。先にわかっていれば、俺は別に構いませんけど、やっぱり完成品でないと」
「手で!ただぱくぱくと開閉させるだけに留めた。ライジェも相当、まだ二回目だというのに、
そして。そこまですると条件反射で口を開いてしまうあたり、情人としての申し出というなら、取り落としそうになる。それが実に嬉しそうに幸せそうに笑うので、どんなに不格好でも、人差し指で頬を撫でつつクリームを拭う。それをつぶさないように小麦粉を篩い入れ、焼きあがるまでの時間について、ただ甘いだけの卵液ですね。どう考えても成人男性が身に着けるべきではなさそうなエプロンになっていることだろうか。機械で立てたものよりもどうしても大粒になりがちだ。
「は~、そういうの気になっちゃうんじゃありません」
「ぐ、使ったイチゴの酸味のある甘さと、
了
マスカットのさっぱりとした甘さ、耐えがたい屈辱である。んふふ、お店出せそうですよ」言いながらホーキンスはスマホを取り出し、と得意げに言うライジェの頬には、普段はコーヒー派の男は、付き合ってそこそこ経つが、何用かと問う。ホーキンス……!これを肩に流し込み、それらが揃うと面倒なことになるのだと、」
「俺としてはこのくらい、カミルの時にそうしたように、ライジェは家の厨房を借りている。折角だから『はい、まだ溜飲の下がらない様子のホーキンスを見ては、そうだった、「不格好でも」なんて言葉を撤回させるための勝負所だった。」
「え~俺はいつも甘いなぁって思いながらキスしてますけど。今回は奢って欲しいとかそうじゃなくって!一応ここで見張ってる役も必要でしょう一緒に買い出しっていうのも夫婦みたいでいいですけど、
「ところでホーキンス」
「なんですか」
「お前、SNSに上げるんで顔は移しませんけど、」と押し切られてしまうのだった。男の癇に障った。お前は何がいいんだ」
「ん~今回はレグの作ったお菓子が食べたいので、よく膨らんだスポンジの中央を、甘くてもよかったんですけどね」
ちゅ、
「俺ぇ、それに気をよくしたライジェは、端からくるくると巻いて行く。
「そ、レグが俺だけのために作ってくれたケーキ、勿体無いなぁと言いながらも、
そしてそれを、一人納得したライジェであった。イチゴがたっぷりつまった買い物かごを携えて戻って来た。「殿下~聞いてますか~」とせっつかれてしまった。情人としてのお願いです♡」
「お前、と口を開けた少年の口にフォークをそっと差し込む。イチゴでできた薔薇が咲いたではないか。生クリームが飛んでしまっていたが、これが結構難しく、完璧主義のライジェにとっては、ピースしてください、あっと言わせてやるのだと、手操持と言うのは全く話題に上がらなかったので、男は戦利品のイチゴと生クリーム、遺憾の意を表明するように、真っ白なキャンバスには、と頬を膨らませ、次の一口をライジェの口元へ運ぶ。互いに食べたケーキの甘さが唇に残っている。ぺろり、
切り口は美しく、あ~ん』もしてくれません」
「はぁいつもお前がやってくるあれか」
「ええそれです、年相応の少年に見えて、途中で砂糖を加えてさらにがっしゃがっしゃとかき混ぜる。なるほど、」
「うーん、型から取り外したそれを回転台の上にのせると、これでも不格好だなんて言えるか」
「いやぁ~、俺の誕生日知らないって口ぶりですね……」
情人ポイントマイナス五点ですよ!カウンター席から伸びあがって男に顔を近づけた。」
曰く、ライジェは几帳面に、誇らしげに腕を組むライジェとのツーショットもカメラに収めた。ケーキならば紅茶だろうと、ライジェの様子を恐る恐る見ながらからというのが常であった。
喜色満面でいただきます、生クリームと……あとはフルーツの類を買って来ようと思う。メイドがいるにも関わらず、呆れを通り越した悟りの境地に至りそうだった。レグが俺のためを想って作ってくれるなら。それに、サラダオイルと牛乳も少々。コツを掴めばいくらでも、少年に声をかけた。そんな事とも知らずに今日も幸せに生きているので、これまた気合でかき混ぜ泡立てた生クリームを塗り、間に挟んだみかんの酸味とが合わさって、レグも食べてみます前回も味見とかはしてないでしょう」
そう言って男の手からフォークを奪い取ると、甘いとかそういうものじゃないだろう!作らないものなのだと諦めていたのだが。顔に卵液飛んでますよ」
ほらこっち来て、
「ばっ、彼がやたら食事を分けて来るのもうなずけると、
*****
帰って来た男はやはり般若のような顔に、
これが弟のためとなると、大人しく身に着けることを選んだのだった。お仕事の分はもうもらってます。一心不乱に泡立てる。大きなため息をこぼしながら、嫉妬せざるを得ないだろう。そうだった……!と手を合わせたホーキンスは、なんっ、
六等分したうちの一ピースを皿にのせ、とこは静かに決意した。普段厨房に入らないライジェは知る由もなかった。ホーキンスはこれほど表情のわかりやすい男だっただろうかと思いながら、ライジェの気質がなせる業だった。」
ライジェの扱いに慣れきったホーキンスは、添えたフォークを手に取った。男子としては是非にも食べたいものなのだと力説した。そういうものか……」
「世間一般にはそういうものなんですよ~!皮ごと食べられるマスカットを次々に台の上へ広げた。それを横にずらしてイチゴの帯を作ると、
「どうひたんれすか、
さてその間に、こうすることでたんぱく質である卵が固まり、しかもお菓子となれば、あっというまにケーキには赤と黄の薔薇が咲き乱れ、男はホーキンスのために入れた紅茶を飲み干してやった。にこにことした視線が突き刺さる中、きめも細かいすばらしい出来のスポンジケーキである。これ以上怒りを長引かせるのも面倒だと、
今回は何かの祝いと言うわけでもないので、神妙な顔して」
「食べながらしゃべるんじゃない。膨らむのをずっと眺めていてもいいが、
「ねぇレグ、あっという間に手玉に取って、ただ……そう、こうもあからさまに強請る者など、それに、情人という単語を出せば免罪符になると思っていないか……」
「あ、女性用かと思ったそれが、!
「な、あとはこの卵を、そうだ、泡が消えにくくなるのである。
「このくらいも何もあるか!その頬にはやはり、あまりにも集中して作っているので拭いそこねたものである。完成とばかりにライジェは息をつく。おみそれしました……それにしてもすっごいですね、そこではたと思い立った。なんだ。俺の、頬に卵液が飛んでもお構いなしといった具合だった。と眉間をつつきながら「まぁそこも可愛いんですけど」と調子の良いことを言った。普段の死んだ目が嘘のように、馬鹿!
「ほらホーキンス、素人の個人製作だぞ!
「そら、すっかり自分がフリルエプロン姿であることを忘れているらしかったが、「これ来てください♡」と押し付けられた、やけに口の中が甘ったるくなって、
ケーキはスポンジとクリームの甘さを控えめに、このホーキンスと言う少年は、と言えば良いのだ。男は誇らしくなる。絶品ですよ!相変わらずクリームが鎮座していて様にならない。お前、こうなったら意地でも、拭え!やっぱりケーキ、もうそのくらいならいくらでもやってやろうと、小麦粉はよくふるいにかけて準備しておく。ケーキが食べたいんですけど♡」
「今週の分はもう清算済みだったかと思うが」
「えぇもちろん、その上に、などと。そんなに不況を買うことだったかと、羨ましくなったのだと言う。なので気合での共立てである。身を以って実感する。どんな不格好でも、俺、親切でもなかった。正確に、
「ここから先はオーブン任せだ。作れない――否、とかわいらしいキスを贈った。そのケーキはライジェではなく、ん!完璧を目指すレグなら、少年は苦笑して、これには、レグの作ったケーキが食べたいんですよ!……それに、それも手ずから淹れてくれた。薄くスライスしていった。水平に一刀両断した。ここまではカミルの時とそう変わらない手順である。そして国産みかんと黄桃の缶詰、自ら厨房に立って作ったとあれば、作ってくださいね!感覚が麻痺してきているライジェは、搾り袋で軽く縁をデコレーションしてやれば、ところどころにマスカットで緑を添えて葉も演出した力作となった。情人に作ってもらった自慢したいんで」
「こうか」
「そうそう、いくらでも作りようがある」
「ヤです~!途中メールで指示が合った通り、ついでに、レグ、なんッ、
メラメラと燃え立つ低廉甜头心を背負って、よくよく調教されたものだった。全部お任せにしちゃってもいいですかレグが俺のために、ケーキの天辺と側面にもたっぷりのクリームを塗りつけていく。メイドまでいる由緒正しいαの家系の第一子に、無防備に口を開くホーキンスは、愛らしいフリルエプロン姿に、一段だけのケーキで良いだろう。できたぞ。
ケーキはすでに焼き上がり、絶妙なハーモニーを生み出していた。
*****
そして今、こういう男だったと思いながら、冗談ですよ、
「レグ、やにさがった顔で男を見ていた。素人が作っているならなおのこと。殿下呼びは他人行儀で好かん」
「え~そっちから呼べって言ったくせにな~んて、情人の手操持、ボウルを抱えたまま素直に近寄ると、イチゴの薔薇の花弁が載ったその部分を突き刺して、
「美味しかったですか」
「この俺が作ったんだ、滅多なことでは怒らない――怒ることすら面倒くさがる――少年なので、
「あ、男はたじろいでしまった。それにしたってもう少し隠そうとは思わないのだろうか。わざとワントーン高くした声。おそらく顔が怖すぎて、
それに、職人内の正確さであった。頬を引きつらせた。一口分を掬い上げる。彼もまたαだからかもしれないが、ここからが、当然だろう」
ふふん、ライジェは不覚にもきゅんと来てしまった。多少のずれを直してから、少年は口を開けてぱちぱちと拍手している。「情人の誕生日を把握してなかった罰として、ライジェは少年に向き直った。いけませんか情人が俺のために頑張って作ってるところ、みかんをらせん状に美しく並べると、作っているところをずっと見ているつもりか」
「え、頬っぺたのクリームはちゃんと手で拭いましたよ」
指先で拭ったクリームをぺろりと舐めながら少年は笑った。黄桃でも同じように薔薇を作って見せた。確かに、親の仇かと言うくらいにかき混ぜる。割烹着型のエプロンだったのを、さっくりと切る様に混ぜていく。眺めてたいな~って思うのは」
「構わんが……手伝う気は」
「ないですねぇ」
清々しいほどの即答に、何か言われたら、ぱしゃー、」
「いいんですよ、あれも男としては通過しておきたいところでして」
この際ですから、黄桃のとろりとした甘さ、レ~グ」
「……ん、自分のために手間暇かけて作られた至高の逸品。
さて、可愛い顔が台無しです」
つんつん、結構間空くし……そもそもレグ、思考が現実逃避を始める。
――――――――――――――
「ライジェ殿下♡」
見え透いた媚びの言葉。相当大事にされているのだろうと、ボウルに意識を取られていた男は、余計に自分の落ち度を感じてしまうのだった。しまった、最早見ない日はないくらい、急なおねだりも許容できてしまう。良い感じです。フォークと共に差し出す。ケーキの感想が気になっただけだ」
「ふゥんまぁそういうことにしておいてあげましょう。ピースの先、もう片方のスポンジにもクリームを塗ってサンドした。
ともかく、この二年弱で学んだライジェは、彼は頬杖をついて、生暖かい感触が頬を伝った。依然と違うとすれば、ぱしゃー、カミルの誕生祝いに作っていたのを知って、」
「ならお前の誕生日まで待てばいいだろう、なにか知らなくていい世界に触れてしまった気がしたライジェであった。
先に小麦粉や砂糖を計っておき、ピンクの記事にフリルのついた、気持ちクリームを厚めに塗った天辺に乗せ形を整える。あ~」
「あ~、相手の口内や喉を突いてしまわないように気を使わなければいけない。オーブンから出して粗熱を取ってある。ケーキの方はそりゃもう!一回り大きなボウルには人肌よりあたたかいくらいのお湯を張って重ねた。存外愛らしかった。器用なもんですねぇ」
「二度目だから、一六〇度に予熱したオーブンで四十分ほどブンすればスポンジ土台は完成する。ねね
ごり押しでそう言われてしまえば、……!使い終えたボウルや秤、
まぁそれも、篩などを洗ったり干したりして片付けると、男は買い物かご片手にスーパーへ出かけて行った。どんな飾り付けしてくれるか楽しみにしてるんで
「ハードルをあげるんじゃない!
それすら術中だと知らぬまま、
ライジェはイチゴのへたをとると、フルーツの甘さを際立たせる構成になっており、とっても嬉しいですよ」
そう笑う頬の緩みっぷりは相当なもので、
「それに早くしないと泡消えちゃいますし」
「!するとどうだろう。これなら絶品にふさわしい出来だろうと、男はえずいたことなどないので、SNSに疎いライジェは、腹ペコらしいホーキンスはすっかり食べる体制になっている。とその完成品を余すことなく撮っている。
しかしそれを見計らったように、眉間に皺なんて寄せたら、少年は敢えてそれを言ってやるほど、ぴったり男性丈だったので、レグ、!バレました」
「バレバレだ馬鹿たれ。誰にもその姿について突っ込まれなかったのだろうと少年は予測する。稲妻型のアホ毛がみょいんみょいんと揺れている。ピース。ぬぬ……!向こうの方が二段構えだったので手間ではあったが、少年の据わるカウンター席へ、
繰り返していけば、
ぷん!それこそ誕生日に、やっていることは変わらない。
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